掲載誌:World Journal of Pharmaceutical Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
この書評のねらい
『パーカダルパナ』(「料理の鏡」の意)は、ニシャダ国のナラ王の作と伝えられるサンスクリット語の料理書です。アーユルヴェーダ(インドの伝統医学)の文献のなかで、家庭の衣食住を扱う「家政学」分野の最古の書とされ、全11章から成ります。調理の基本原則から始まり、季節ごとの食事の決まり、菓子、乳がゆ、飲み物、スープ、米料理、ジャム、冷水、乳製品、ヨーグルトの一種であるカード(凝乳)へと話題が進みます。
著者らは、この書が料理を体系的に扱っている点に注目しています。味の組み合わせを63種に分類し、料理を16の区分で説明していることから、ナラは料理を単なる記述ではなく、数学に近い形で捉えていたと著者らは述べています。この書評の目的は、本書の内容を章ごとに要約し、他の文献にない特色を整理して、現代の食の実践とどう対応するかを示すことです。
どのように読んだか
著者らは、英訳と注釈が付いた『パーカダルパナ』の全11章を一次資料としました。各章について、扱う主題、紹介されている料理、作り方、本文に記された性質や効能を書き出し、本書に特有と思われる特徴を別に整理しました。さらに、料理や技法を現代の対応する実践と照らし合わせています。内容の紹介は本書に書かれている点に限り、注釈者のコメントはそれと分かるように区別したと説明しています。
章ごとに見た主な内容
第1章では、食べ物を5つの種類に分け、調理された食べ物の8つの欠陥(アシュタ・ドーシャ)を挙げています。それぞれの欠陥が、食べた人にどのような害をもたらすかも記されています。米の炊き方は段階的に説明され、古米をよく洗って米と水をおよそ1対3で鍋に入れ、沸騰して粒が少し締まったら混ぜ、少量のカードや乳、水を加えて火から下ろし、残り火の上で柔らかくなるまで置くという手順です。肉については、ヤギ、ヒツジ、鳥の肉を選び、皮と腸を分けて洗い、骨ごと別の鍋で煮る手順が示されています。著者らは、これを肉の安全な扱いと作業の順序を定めた基本的な手順と位置づけています。
第2章では、季節ごとにふさわしい肉が割り当てられています。たとえば春にはシカ、雨季には家禽や魚といった具合で、肉の温める性質や冷やす性質を季節の必要に合わせるという考え方が理由として示されます。第3章では「菓子の王」と呼ばれるバクシャラージャの作り方が紹介されます。小麦、豆のペースト、ココナツ、カルダモン、岩塩、バター、ナツメヤシ、砂糖を混ぜて丸め、香りのよい葉で包んで休ませる料理です。
第4章の乳がゆの章には、ニンニクを使う一品があります。皮をむいたニンニクを糸に通し、新しい水で4〜7回ほど繰り返しゆでて刺激を除いてから、米と乳で煮るという方法です。第5章では、大きな容器に20本の小さな管(ナーリカ)を差し込み、それぞれにマンゴー、ザクロ、ハスやジャスミンなど異なる果物や花の抽出液を入れる装置が描かれています。客は好みの管から香りの付いた水を取ることができ、著者らはこれを風味を選んで混ぜる「ディスペンサー」のようなものと説明しています。
第9章では、素焼きの壺、うちわによる送風、花の香り付けを使って水を冷やし香りを付ける方法が紹介されます。章のなかには、砂の台、ヤシの葉のうちわ、花の香り付けのうち、どれが最も安く効果的な冷却法かを二人が議論し、実際に試して公の場や王の判定で勝者を決める場面があります。濁った水を種子のペーストで澄ませる方法にも触れています。第10章では、水牛の乳を焦がさないよう混ぜながらゆっくり煮詰め、元の量の半分、4分の1と煮詰め具合によって別の名前の品になることが記されています。第11章では、大きなシトロン(柑橘の一種)の中身をくり抜き、温めた乳などを詰めて口をふさぎ、皮を容器にしてカードを固める方法が紹介されています。注釈では、小さな素焼きの器でカードを作って売る現在の習慣に、この伝統が残っていると述べられています。
各章には、料理ごとの性質や効能も記されています。たとえば菓子は消化力や体力を高めて軽いとされ、乳の煮詰め料理は疲れを和らげるとされています。これらは本書の記述として紹介されたもので、書評のなかで効果が検証されたわけではありません。
本書の特色と、書評が示す意味
著者らは、11章を通読して見えてくる本書ならではの特色として、6点を挙げています。調理の欠陥を8つに細かく分類している点、バクシャラージャという名前の付いた看板料理がある点、20本の管を使う飲み物の装置、ニンニクを繰り返しゆでて刺激を除く技法、冷却法を比べる試しの場面、シトロンの皮を発酵容器に使う方法です。なかでも冷却法の比べ合いについて著者らは、結論を述べるだけのことが多いアーユルヴェーダ文献では珍しく、実際に試して確かめる形で描かれていると指摘しています。
書評では、本書のテーマを現代の実践とも対応づけています。調理の8つの欠陥は食品安全のための品質チェックリストに、乳の煮詰め料理はラブディやコーヴァといった現代の乳製品に、素焼き壺による冷却は気化熱を利用した冷却に、それぞれ通じるものとして整理されています。
著者らは、『パーカダルパナ』が単なるレシピ集ではなく、食品の安全、季節に応じた医学的な考え方、持続可能な技術、五感に訴える技を一体として扱った体系を示していると結論づけています。その内容の多くは、それと気づかれないままインドの台所や市場に生きているといいます。著者らは、アーユルヴェーダ、とくに健康維持を扱う分野を学ぶ人にとって、食事と調理を知るための資料として、本書がもっと広く読まれる価値があるとしています。
著者:1*Dr. Vishnupriya Kodoth, 2Dr. H. T. Eswaran, 3Dr. Nusaiba
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):1*Dr. Vishnupriya Kodoth, 2Dr. H. T. Eswaran, 3Dr. Nusaiba. PAKADARPANA OF NALA: A BOOK REVIEW OF THE ANCIENT SANSKRIT TREATISE ON CULINARY SCIENCE. World Journal of Pharmaceutical Research 2026-10-16. DOI: 10.5281/zenodo.23384992. 原著ライセンス:CC BY.