アミノ酸の一種「セリン」は、体の中で脂質や糖質からつくることができる非必須アミノ酸の一つです。名前を聞き慣れない方も多いと思いますが、たんぱく質を構成する成分の一つと考えると分かりやすいでしょう。この栄養素には日本人の食事摂取基準のような推奨量・目安量は設定されていません。個別のアミノ酸は基準が定められないことが多いためですが、基準がないからこそ「どの食品に多いか」を数字で見ていく面白さがあります。
日本食品標準成分表のデータでセリンが多い食品を並べると、上位に出てくるのは生の肉や魚、豆そのものではありません。乾燥卵白、カゼイン、分離大豆たんぱくといった、水分を抜いたり成分を絞り込んだりした「精製度の高いたんぱく質食品」が並びます。同じ「セリンが多い」という共通点を持ちながら、それぞれが一緒に運んでくる栄養素はまったく違う顔ぶれです。ここに気づくと、数字だけでは見えない食品の個性が見えてきます。
上位5食品を見比べる
第1位は乾燥させた卵白
鶏卵 卵白 乾燥卵白は可食部100gあたりセリンが6000mg(推定値)、エネルギーは350kcalです。この食品はビタミンB2も2.09mgと多く、成人女性(30〜49歳)の推奨量1.2mg/日に対して174%にあたります。ビタミンB2は多くの栄養素の代謝に関わり、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素として知られています。また分岐鎖アミノ酸のバリンが5800mg(推定値)、メチル基の受け渡しに関わるメチオニンが3200mg(推定値)と、他のアミノ酸も豊富です。一方で脂質はほぼゼロという特徴もあります。ただし乾燥卵白は少量で使う食材のため、実際に口にする量はごく少量にとどまることが多い点は押さえておきたいところです。
第2位は牛乳由来のカゼイン
牛乳及び乳製品(その他)カゼインはセリン5200mg、358kcalです。カゼインは牛乳のたんぱく質の約80%を占める成分で、このデータではうま味成分でもあるグルタミン酸が19000mgと際立って多く、脳内の神経伝達物質のもとになるとされるチロシンも5200mg含まれています。牛乳由来のため乳を原料とする食品であることは踏まえておきたいポイントです。
第3位タイは2種の分離大豆たんぱく
だいず 分離大豆たんぱく 塩分調整タイプと塩分無調整タイプは、どちらもセリン5100mg(塩分調整タイプは推定値)、335kcalと同じ数値です。塩分の有無以外は成分構成がそろっており、優劣ではなく用途で選ぶ食品といえます。どちらもグルタミン酸17000mg(調整タイプは推定値)、不可欠アミノ酸トリプトファン1200mg(同)を含み、成長ホルモンの分泌に関わるとされるアルギニンも塩分調整タイプで6900mg(推定値)とまとまった量です。大豆由来のたんぱく質食品らしく、卵白やカゼインとはまた違ったアミノ酸の顔ぶれになっています。
第5位は乾燥させたかずのこ
にしん かずのこ 乾はセリン4200mg(推定値)、358kcalです。ここまでの4食品と違い唯一の魚介由来で、トリプトファン1300mg、チロシン3700mg(いずれも推定値)が目立ちます。にしんは獲れる時期や場所によって春にしん・夏にしんと呼び分けられる魚ですが、乾燥かずのこは水分を飛ばして加工された保存食品のため、少量でも成分が凝縮されている点は知っておくとよいでしょう。
同じセリンでも中身は別物
こうして5つの食品を並べると、セリンという一本の物差しの裏に、卵由来・乳由来・大豆由来・魚由来という異なる背景を持つ食品が隠れていることが分かります。セリンの量だけを追いかけると、卵白のビタミンB2、カゼインのうま味アミノ酸、大豆のトリプトファンやアルギニンといった、それぞれの食品ならではの個性を見落としてしまいます。基準値が無い栄養素だからこそ、数字の大小だけで一列に並べるのではなく、その食品が同時に何を運んでくるかまで見て選ぶ視点が役立ちます。なお、セリンを機能性関与成分とした機能性表示食品も届け出られていますが、これは事業者が消費者庁に届け出た特定の配合量での機能であり、今回見てきたような食品中の含有量とは別の話です。数字を鵜呑みにせず、食品ごとの個性を楽しみながら選んでみてはいかがでしょうか。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。