著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:GEOGRAPHY ENVIRONMENT SUSTAINABILITY

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

散らばった記録を世界規模でまとめる

気候変動や環境の劣化によって、世界の食料システムは大きな圧力にさらされています。そのため、食の多様性を支え、変化に強い食料資源を見つけることへの関心が高まっています。この論文が取り上げたのは「野生の在来野菜」です。森林や草地、湿地、山地、休耕地などで採集され、地域の人々が野菜として食べてきた、栽培されていない植物を指します。

野生の在来野菜は、地域の食事や食文化、暮らしを支えてきました。季節的に食料が不足する時期には、つなぎの食料にもなってきました。それでも、こうした植物に関する知識は地域や文化ごとにばらばらに記録されてきました。植物と人との関わりを調べる学問を民族植物学といいます。この分野の研究の多くは、特定の地域社会が使う植物を記録したものでした。どんな種類があるのか、どこで記録されているのか、どの部分をどう食べるのか、薬としても使われるのかを、世界規模でまとめた研究は限られていました。著者は、こうした点を総合的に整理することを目的にこの研究を行いました。

90本の現地調査研究から1,878種を整理

著者は、学術文献データベースのScopusを使い、2006年から2026年に発表された英語の査読付き論文を検索しました。論文の選び方には、系統的レビューで広く使われる報告手順(PRISMA)を用いました。収録の条件は、現地での聞き取りなどにもとづいて野生の食用植物を記録し、野菜としての利用を明記している研究であることです。栽培野菜や香辛料、野菜としての利用がない薬用植物を扱った研究は除外しました。その結果、90本の研究が分析の対象になりました。

複数の研究に同じ植物が別の学名で登場する場合もあるため、学名は国際的な植物名データベースを基準にそろえられました。重複を整理した結果、最終的なデータには1,878種の野生野菜が含まれました。食べる部位、調理法、薬としての用途についても共通の分類にまとめ直し、種の数や割合、用途の記録件数を集計しました。

主な結果:葉や若い茎を、加熱して食べることが多い

記録された種の数が最も多かった国は中国(574種)で、インド(527種)、トルコ(249種)、パキスタン(200種)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(189種)、クロアチア(162種)が続きました。アジア、特に中国とインドに記録が集中し、地中海やバルカン地域にも記録の多い地域がみられました。ただし著者は、これは実際の生物多様性をそのまま示すものではないと述べています。あくまで民族植物学的な記録が多い地域を示すものとして解釈すべきだという立場です。

植物の科では、キク科が最も多く、マメ科、アブラナ科、シソ科、セリ科、タデ科、イネ科、ヒユ科が続きました。食べる部位では、複数の部位を食べる種が最も多く(621種)、葉(538種)、若い芽や茎(263種)が続きました。葉や茎のような、成長する部分が中心だったことになります。科によって傾向は異なり、多くの科では葉の利用が目立ちました。一方、イネ科では芽や茎の利用が中心でした。

調理法では「野菜として加熱調理する」が最も多く、生食、スープや煮込み、炒め物や揚げ物が続きました。発酵や漬物といった保存のための調理法も記録されていました。葉は加熱、生食、炒め物、スープなど幅広い調理法で使われていました。根やイモ、地下茎は、スープや煮込みとの結びつきが比較的強くみられました。

記録された1,878種のうち、77.6%の種は食用としてのみ報告されていました。残りの22.4%の種は、食用に加えて伝統的に薬としても使われると報告されていました。薬としての用途を、記録の件数で数えると、最も多かったのは具体的な症状が示されていない一般的な記述(163件)でした。用途が特定されたものの中では、胃腸に関する用途が最も多く(91件)、呼吸器(44件)が続きました。これらは各地の伝統的な使われ方の記録であり、効き目を確かめたものではありません。

多様で多機能な、見過ごされてきた食料資源

著者は、1,878種という規模から、野生の在来野菜は非常時だけの周辺的な食べ物ではないと論じています。世界の食用植物の多様性の重要な一部をなしているという見方です。葉や若い芽が多く利用されている点については、他の研究を引きながら考察しています。こうした部位は再生しやすく、植物を根こそぎ採らずに収穫できる可能性があります。加熱調理が多い理由としては、加熱やあく抜きが必要な成分を含む植物があることを挙げています。発酵や漬物は、季節の限られた野菜を長く利用するための工夫として位置づけています。

一方で、乱獲や生息地の消失が一部の種を脅かしうることにも著者は注意を促しています。野生野菜の活用を進めるには、丁寧な記録、持続可能な採集、地域に根ざした保全が欠かせないとしています。栄養や成分についての検証も必要だと述べています。また、薬としての用途の記述が研究ごとにばらつくことや、検索を英語論文とScopus収録誌に限ったことを、この研究の限界として挙げています。この研究は、各地に散らばっていた記録をまとめることで、野生の在来野菜が食・文化・伝統的な知識を結ぶ多様な資源であることを、世界的な視点から示しました。

原著論文の著者・所属:Muhammad Faried(Hasanuddin University, Agriculture Faculty, Agronomy Department; Tropical Orchid and Horticulture Research Group, Agriculture Faculty, Hasanuddin University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Faried. Wild Indigenous Vegetables in Global Ethnobotanical Studies: Geographic Patterns, Biocultural Sustainability, and Food-System Resilience. GEOGRAPHY ENVIRONMENT SUSTAINABILITY 2026-10-09. DOI: 10.24057/2071-9388-2026-4765. 原著ライセンス:CC BY.