青魚を選ぶとき、何を基準にしていますか。まいわし(生干し)、さんま(皮つき・生)、ぶり(成魚・生)の3品は、日本食品標準成分表(八訂)の可食部100gあたりでEPA・DHA合計が2,500mg以上記録されています。一方、ごまさば(生)はDHAの値はあるものの八訂にEPAの収載がなく、まあじ(皮つき・生)はEPA・DHAともに八訂に収載なし——読者が選択肢として思い浮かべることの多い魚種のため冒頭で触れておきますが、これら2品はEPA+DHA合計での比較からは除外し、まいわし・さんま・ぶりの3品を中心に見ていきます。差が開くのは「実際に何gを食べるか」という単位を揃えた瞬間です。
100gで並ぶ、という事実
EPA(イコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、ともにn-3系の多価不飽和脂肪酸です。日本食品標準成分表(八訂)の実測値で、可食部100gあたりの数値を整理します。
- まいわし(生干し):EPA 1,400mg・DHA 1,100mg 合計 2,500mg
- さんま(皮つき・生):EPA 1,500mg・DHA 2,200mg 合計 3,700mg
- ぶり(成魚・生):EPA 940mg・DHA 1,700mg 合計 2,640mg
さんまが突き出ているとはいえ、まいわしやぶりも2,500〜2,600mg台で迫ります。数字だけ追えば「どれでも大差ない」と感じるのは無理もありません。
1尾・1切れに換算したとき、差が開く
ここで単位を「食べる量」に揃えてみます。日本食品標準成分表(八訂)のさんま(皮つき・生)は廃棄率0%——つまり尾頭付き・丸ごとの重量がそのまま可食部となります。目安量として挙げられる1尾約150gは、そのまま可食部の重さとして計算できます。ぶりは1切れあたり約80gを目安にします。
さんま1尾(可食部約150g)のEPA・DHA量を計算すると——
- EPA:1,500mg × 1.5 = 2,250mg
- DHA:2,200mg × 1.5 = 3,300mg
- EPA+DHA合計:5,550mg
一方、ぶりを1切れ(約80g)食べたときは——
- EPA:940mg × 0.8 = 752mg
- DHA:1,700mg × 0.8 = 1,360mg
- EPA+DHA合計:2,112mg
100g比較ではぶりとさんまの差は約1,060mgでしたが、一食の単位に直すと差は約3,400mgまで広がります。さんまは1尾を丸ごと食べることが多い魚で、ぶりの1切れよりも一度に口にする量がそもそも多い。この食べ方の違いが、数値の逆転を生んでいます。
なお、まいわし(生干し)の1尾あたりの可食部重量は魚のサイズにより異なります。八訂の廃棄率は40%のため、購入時の魚の重量に0.6を掛けた値が可食部の目安となります。
EPA・DHAをはじめとするn-3系脂肪酸は、日本人の食事摂取基準(厚生労働省)において成人に対して目安量が設定されています(α-リノレン酸も含むn-3系脂肪酸として成人おおむね2g/日前後)。大量摂取を推奨するものではなく、日常の食事のなかで適切に取り入れることが目的です。
また、まいわし(生干し)は食塩相当量が100gあたり1.8gと高めです。高血圧・腎機能低下・妊娠高血圧症候群など、塩分管理が必要な方は摂取量に十分注意してください。該当する方は主治医や管理栄養士にご相談ください。
ぶりとさんまを並べるもう一つの視点
ぶりは出世魚で、成長段階によって「わかし→いなだ→わらさ→ぶり」と名が変わります(関東の呼び名)。成魚になるほど脂がのり、DHA 1,700mg・EPA 940mgという数値もそれを反映しています。脂質も100gあたり17.6gと高く、「少量でしっかりとれる」という点では密度の高い食品です。
ぶりが劣るわけではなく、「一度に食べられる量」がさんまに比べて少ないという構造上の差です。刺身や照り焼きで提供されることが多い分、1回の食事で皿に乗る量は1切れ前後に収まりやすい——それが100g比較では見えにくい実量の差につながっています。
選び方の軸は「食べ方の単位」にある
100gあたりの数値は、食品の「濃度」を示す指標です。しかし、毎日の食事で実際に得られる量は「濃度 × 食べる量」で決まります。さんまのように1尾丸ごと食べる食べ方が普通の魚は、100g比較ではわからない実力を持っています。
青魚を選ぶとき、「今日は何gを食べられる料理にするか」を先に考えると、答えは自然に絞れてきます。塩焼きで1尾まるごと食べられる日は、一食あたりのEPA・DHA総量が増えやすいさんまを選ぶのが一つの手です。刺身や照り焼きで1〜2切れのときは、ぶりの100gあたりの密度を活かすという使い分けが現実的です。
ごまさばはEPA+DHA合計での比較対象からは外れますが、成分表の数値には別の顔があります。たんぱく質が100gあたり23gと今回取り上げた5品(まいわし・さんま・ぶり・ごまさば・まあじ)のなかで最も多く、脂質は5.1gと低め。DHAは100gあたり830mg収載されています。EPA+DHAの合計値ではなくたんぱく質量や脂質量を軸に選びたい日には、その特徴が参考になります。ただし、頭・内臓等を除いた可食部は全体の約半分(八訂の廃棄率50%)と少ない点には注意が必要です。
食品成分表の数値は、読み方を変えると「どれがいいか」ではなく「どう食べるか」を教えてくれます。青魚選びの正解は魚種ではなく、皿の上に何gを乗せるか——その単位を意識するだけで、毎日の食卓の意味が少し変わります。
※EPA・DHAを含むn-3系脂肪酸の摂取目安は厚生労働省「日本人の食事摂取基準」を参照してください。成分値は日本食品標準成分表(八訂)に基づきます。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準