牛乳にDHA(ドコサヘキサエン酸)を天然に強化した「DHA強化牛乳」は、機能性食品として注目される存在です。ただ、牛乳は飲用前に加熱処理(殺菌など)を受けるのが一般的で、この加熱の強さや方法によって、含まれるDHAが体内でどれくらい消化・利用されやすい形になるのかは、これまで十分にわかっていませんでした。今回紹介する研究は、この「加熱処理とDHAの消化されやすさ」の関係を科学的に調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、生乳、低温殺菌乳、インフュージョン処理(INF、高温瞬間加熱の一種)乳、そして超高温殺菌(UHT)乳という、加熱の強さが異なる4種類の牛乳を用意し、人工的に消化管内の環境を再現する「in vitro消化実験」と、脂質の詳細な組成を調べる「リピドミクス解析」を組み合わせて比較しました。
その結果、INFおよびUHTという比較的強い熱処理を受けた牛乳では、乳脂肪球を包む膜(乳脂肪球膜)や脂質の組成が大きく変化していることが確認されました。さらに消化が進む過程でも、INF・UHT乳は粒子サイズが小さいまま保たれ、粒子表面の電気的な性質を示すゼータ電位(の絶対値)も高く維持されていました。これにより、脂肪を分解する消化酵素であるリパーゼが脂肪粒子に接触・作用しやすくなっていたと報告されています。
こうした変化の結果として、INFおよびUHT処理を施した牛乳では、生乳や低温殺菌乳と比べて脂肪の分解(リポリシス)が速く進み、DHAの生体利用率(体内で利用可能な形になる割合)もそれぞれ66.08%、59.88%と、有意に高い値を示したとされています。リピドミクス解析からは、こうした強めの熱処理によって、DHAが遊離脂肪酸やモノグリセリド、リゾホスファチジルコリンといった、体内で吸収されやすいとされる形で放出されやすくなっていたことも確認されました。なお、この過程で消化中にDHAが失われる量が増えるということはなかったと報告されています。
これらを総合し、研究チームは、INFやUHTのような強めの加熱処理が、脂質の界面構造(脂肪粒子の表面の状態)を再構築し、消化の効率を高めることを通じて、牛乳に含まれるDHAの生体利用率を高める可能性を示唆する結果としています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、人工的な消化環境を用いたin vitro実験と脂質の分析にもとづくものであり、実際に人が牛乳を飲んだ際の体内でのDHA吸収を直接測定したものではない点に留意が必要です。また、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。加熱処理の方法や強さが牛乳中のDHAの消化されやすさに影響しうるという知見を示すものであり、特定の加熱処理を推奨したり、健康効果を保証したりするものではない点にご注意ください。
まとめ
今回の研究では、DHAを天然に含む牛乳について、加熱処理の種類によって脂肪の消化されやすさやDHAの生体利用率に差が生じる可能性があることが、in vitro消化実験とリピドミクス解析によって示されました。特にインフュージョン処理やUHT処理といった強めの熱処理では、脂肪粒子の構造変化を通じてDHAが吸収されやすい形で放出されやすくなっていたと報告されています。今後、こうした知見がヒトでの実際の吸収にどうつながるかについては、さらなる研究の積み重ねが待たれるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:熱処理が天然DHA強化牛乳の脂肪消化とDHA生体利用率に及ぼす影響(エルダブリューティー(LWT)・2026年07月)